2019年10月27日日曜日

知って役立つ労働法

働くときに必要な基礎知識


(平成29年6月更新版)


※ このテキストは厚生労働省ホームページ(下記URL)でも公開されており、学習
や研修などに際して、ご自由に印刷・配布等、ご使用頂くことができますので、ぜひ
ご活用下さい。
(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudou
zenpan/roudouhou/index.html)
※このテキストでは、名称の長い一部の法律については、略称で記載しています。
本テキストの主な内容をまんがでまとめた
「これってあり?まんが 知って役立つ労働法Q&A」
httP://www.mhlw.go.jP/stf/seisakunitsuite/bunya/mangaroudouhou/
とあわせて読んでいただくと、よりイメージがつかめます。
こちらもぜひご活用下さい。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
→(男女雇用機会均等法)
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
→(育児・介護休業法)
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
→(パートタイム労働法)
次世代育成支援対策推進法
→(次世代法)
女性の職業生活における活躍推進に関する法律
→(女性活躍推進法)
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
→(労働者派遣法)


本テキストの主な内容をまんがでまとめた
「これってあり?まんが 知って役立つ労働法Q&A」
httP://www.mhlw.go.jP/stf/seisakunitsuite/bunya/mangaroudouhou/
とあわせて読んでいただくと、よりイメージがつかめます。
こちらもぜひご活用下さい。


プロローグ:働くときの基礎知識
①働きはじめるときの基礎知識
「いい仕事ないかなあ。」そう呟きながら、あなたは求人誌で求人情報を見ていました。3
0分ほど探したでしょうか、ふと、1つの広告が目にとまりました。「これ、よさそうに見えるけ
ど・・・。」さあ、以下の広告、どうチェックしましょう?



① ここでは「正社員」を募集していますが、そのほか、派遣会社と契約を結んだ上で
別の会社に派遣されて働く派遣社員や、決まった期間働く契約社員、通常の労働者
より短い時間で働くパートタイム労働者など、色々な働き方があります。どんな働
き方で働くかは大きなポイントですので、しっかり確認しましょう。
⇒色々な働き方については、「第4章 多様な働き方」(P.37-42)で詳しく解説しています。
② 仕事の内容、給料、勤務日などの労働条件や、各種保険・年金制度の加入状況等は
忘れずにチェックし、必要に応じて会社に問い合わせるなどして、自分が具体的にどんなふうに働くことになるのかをしっかり確認しましょう。
⇒結果、「よさそうな仕事だな」ということになり、ハローワークで履歴書添削サービスなどを受けてから面接に挑んで無事合格、さあ労働契約を交わす前に、労働契約の書面について、求人広告の内容と違いがないかよく確認しましょう。(会社は、労働者を雇うとき、仕事の内容など特に重要な6項目の労働条件について、口約束だけではなく書面で明示しなければならないことになっています。また、会社は、労働契約の内容に、求人広告との違いがある場合や、求人広告に書かれ


ていなかった内容が追加されている場合などには、どこが違う内容や追加された内容なのか、明示しなければならないことになっています。)
また、「試用期間」や「固定残業代」などが労働条件に含まれていないか、よく確認しましょう。
⇒「コラム3 固定残業代について」「コラム4 試用期間について」参照。
③ 求人雑誌等の場合、大きなスペースが無いため、労働条件について全てが記載されていない場合もあります。求人広告に記載されていなかった内容にも、あなたにとって重要な項目があるかもしれませんので、求人広告に記載されていなかった内容も注意して確認するようにしましょう。(会社は、原則として、初めて面接に臨むときまでに、求人広告に記載できなかった労働条件について明示すべきであることになっています。この場合も、②のとおり、会社はどの内容が求人広告に書かれていなかった内容か、明示しなければならないことになっています。)
⇒働く前の留意事項は、「第2章 働き始める前に」(P.13-21)で詳しく解説しています。


②働くときの基礎知識
「さあ、がんばって働くぞ!」と、意気揚々と会社にやってきたあなた。これから、どんな人とどんな仕事ができるだろう。想像がふくらみます。一方で、労働契約の内容を会社がしっかり守ってくれるだろうか、けがをしたらどうなるんだろうかなど、不安もふくらむでしょう。そんな時は、あなたの会社が以下の6つのルールをしっかり守っているか確認してみましょう。



③仕事をやめるときの基礎知識
他にやりたいことが見つかったので、仕事をやめたくなったあなた。とはいえ、やりかけた仕事もあるし、上司には言い出しにくい。やめたらやめたで、次の職業が見つかるまでどうやって暮らせばいいかわからない。就職活動を有利に進めるために、新たなスキルも身につけたい。さて、どうしたものか・・・。以下の図を頭に入れて、そんな事態に備えましょう。



④働くことに関する相談窓口
今までお伝えしてきた知識で身を固め、「さあ、働くぞ!」となったみなさんは、それぞれ
の夢や関心に沿って、働きたい職業を決め、企業を探し、就職していくことになります。そんなとき、困った場合の相談先がわかると心強いですよね。主な相談窓口をどんなときに使うかについてのフローチャートと相談窓口一覧をみて、この章のしめくくりとしましょう。
⇒就職のスケジュールなどについては、「第6章 就職の仕組み(新規大学等卒業者の場
合)」(P.48-55)で詳しく解説しています。
⇒働くことに関する相談窓口については、本テキストの裏表紙にも掲載しています。








※所在地や連絡先については、各窓口の説明下部のURLをご覧下さい。
①総合労働相談コーナー
各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や全国の各労働基準監督署などに設置している「総合労働相談コーナー」では、解雇、賃金引下げなどの労働条件の問題のほか、募集・採用、いじめ・嫌がらせなど、労働問題に関するあらゆる分野について、労働者、事業主どちらかからの相談でも、専門の相談員が、面談あるいは電話でお受けしています(ご相談は無料です)。困ったことがあれば、ぜひ相談して下さい。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

②労働基準監督署
賃金、労働時間、安全衛生などについての監督、指導、労働基準関係法令にもとづく許
可、認可などの事務を行っています。
労働条件相談ほっとライン(厚生労働省委託事業)
労働基準監督署等が閉庁している平日夜間や休日に、労働条件に関する電話相談を受け
付けています。電話番号:0120-811-610
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/location.html


③ハローワーク(公共職業安定所)
国が運営する地域の総合的雇用サービス機関として、仕事を探している方に対して、職
業相談・職業紹介・指導、職業能力開発促進センターへの入校あっせん、雇用保険の給付
を行っています。地域の求人情報について求人検索パソコンや職種ごとにまとめたファイ
ルなども公開しています。また、インターネットを通じて、ハローワークインターネット
サービスを利用することもできます。さらに、子育て中の女性等は「マザーズハローワー
ク」、大学院・大学・短大・高専・専修学校等の学生、卒業後未就職の方等は「新卒応援ハローワーク」、正社員を目指す若年者(45 歳未満の方)等は「わかものハローワーク」などをご利用いただけます。これらのサービスはすべて無料ですので、仕事を探している際には、ハローワークを利用するとよいでしょう。
また、ハローワークの求人情報と実際の労働条件が違う場合などは、ハローワークまた
はハローワーク求人ホットラインにご相談ください。
<全国ハローワークの所在案内>
http://www.mhlw.go.jp/kyujin/hwmap.html


<ハローワーク求人ホットライン>
03-6858-8609
(受付時間 全日8:30~17:15 ※年末年始を除く)

④都道府県労働局雇用環境・均等部(室)、需給調整事業課(室)
各都道府県労働局に置かれている雇用環境・均等部(室)では、職場での性別による差別、セクシュアルハラスメント対策、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策、働く妊産婦の健康管理、育児休業・介護休業等の申出又は取得等、パートタイム労働者の均等・均衡待遇や正社員転換推進、労働契約法などについて相談を受け付けています(ご相談は無料です。)。
また、各都道府県労働局に置かれている需給調整事業課(室)では、ハローワーク以外の求人情報などについて相談を受け付けていますので、求人情報と実際の労働条件が違う場合などはご相談ください(ご相談は無料です。)。
http://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shozaiannai/roudoukyoku/

⑤労働委員会
不当労働行為(労働組合に加入したことを理由とする使用者による不利益取扱いなど。
P.11 参照)があった場合に労働組合や組合員を救済したり、ストライキなどの労働争議
があった場合に労働組合と会社の間の争いの解決のための調整(あっせん、調停、仲裁)
を行います。また、労働者個人と会社の間での労働条件など労働問題に関する争いを解決
するための支援(個別労働紛争のあっせん)を行っています(注:個別労働紛争のあっせ
んについては、東京都、兵庫県、福岡県の各労働委員会及び中央労働委員会を除く各都道
府県労働委員会で取り扱っています)。すべて無料で行っています。
http://www.mhlw.go.jp/churoi/chihou/pref.html (都道府県労働委員会)

⑥都道府県
各都道府県が設置している、労政事務所や労働相談窓口においても、労働相談を受け付
けています。お住まいの都道府県のホームページなどをご覧下さい。

⑦日本司法支援センター(法テラス)
法テラスは、法的トラブルに遭ったときに「どこに相談したらいいか分からない」「身
近に弁護士がいない」「弁護士費用が払えない」といった理由から、相談できずにいる人
も少なくないことから、全国どこでも、だれでも、必要な法的支援を受けられるよう設立
された総合相談所です。労働問題についても、みなさんの法的トラブルを解決するため、
法テラスでは、さまざまな法的サービスを提供しています。
http://www.houterasu.or.jp/


⑧日本年金機構(年金事務所)
日本年金機構(年金事務所)では、国から事務の委任・委託を受け、公的年金に係る
一連の運営業務(適用・徴収・記録管理・年金相談・給付など)を行っています。
厚生年金保険の適用に関する相談については、年金事務所の厚生年金適用調査課、一
般的な年金相談については、全国の年金事務所のお客様相談室や街角の年金相談センタ
ー(全国社会保険労務士会連合会が運営)で受け付けています。
http://www.nenkin.go.jp/section/index.html(年金相談窓口)
http://www.nenkin.go.jp/section/tel/index.html(ねんきんダイヤル)

⑨地域若者サポートステーション(サポステ)
サポステでは、働くことに悩みを抱えている15 歳~39 歳までの若者に対し、職業的自
立に向けての専門的相談支援、就職後の定着・ステップアップ支援、協力企業への就労体
験などにより、就労に向けた支援を行っています。
http://saposute-net.mhlw.go.jp/

⑩働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
「こころの耳」では、職場のメンタルヘルスに関する総合的な情報提供を行うとともに、
職場における心の健康問題に関する事業者・企業の人事労務担当者・労働者などからの様々
な質問や相談にメール・電話で対応しています。
https://kokoro.mhlw.go.jp/


第1章 労働法について

1 労働法とはなんだろう

みなさんは、「労働法」ということばを聞いたことがありますか。そういう名前の法律があ
るわけではありません。労働基準法や労働組合法をはじめ、男女雇用機会均等法、最低
賃金法など、働くことに関するたくさんの法律をひとまとめにして「労働法」と呼んでいます。


2 労働法の役割とは

では、なぜ労働法というものが必要なのでしょうか。みなさんがアルバイトをしようとする場合や会社に就職しようとする場合、みなさん(働く人、労働者、従業員)と会社(雇う人、使用者、企業、事業主)との間で、「働きます」「雇います」という約束=労働契約が結ばれます。どういう条件で働くか等の契約内容も労働者と会社の合意で決めるのが基本です。だからといって、この契約を「全く自由に結んでよい」としてしまったらどうなるでしょうか。労働者はどこかに雇ってもらって給料をもらわなければ、生計を立てていくことができません。したがって、雇ってもらうために、給料や働く時間に不満があっても、会社の提示した条件どおりに契約を結ばなければいけないかもしれません。また、「もっと高い給料で働きたい」と会社と交渉しようとしても、「ほかにも働きたい人はいるから、嫌なら働かなくていい」と言われてしまい、結局会社の一方的な条件に従わなければいけないかもしれません。
このように、労働契約の内容を全くの自由にしてしまうと、会社よりも弱い立場にあることが多い労働者にとって、低賃金や長時間労働など劣悪な労働条件のついた、不利な契約
内容となってしまうかもしれません。そうしたことにならないよう、一定のルールをもうけて労働者を保護するために労働法は定められています。労働法について知識をつけておくことが、みなさん自身の権利を守ることにつながります。
労働法の保護を受ける「労働者」には、雇われて働いている人はみな含まれますので、
正社員だけでなく、派遣社員(派遣会社と労働契約を結んだ上で、別の会社に派遣され、
その指揮命令下で働く労働者)、契約社員(労働契約にあらかじめ契約期間が定められて
いる労働者)、パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が、同じ事業所の通常の労働
者(いわゆる「正社員」)と比べて短い労働者)やアルバイトでも、「労働者」として労働法の適用を受けます (ただし、どのような働き方をするかによって、具体的な適用の内容は変わってきます)。


(※)一方で、事業主は基本的に労働法の保護を受けません。「業務委託」や「請負」など、注文主から受けた仕事の完成に対して報酬が支払われるような働き方をする場合は、事業主として扱われるため、基本的には労働法の保護を受けられないことに注意が必要です。
(→P.37-42「第4章 多様な働き方」参照)

もう一歩進んで①

3 労働組合とは

労働組合とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位
の向上を目的として組織する団体」、すなわち、労働者が自分たちの手で自分たちの権利
を守るために作る団体です。
休みも十分にとれずに低賃金で働いている状況をなんとかしたくても、労働者ひとりで会
社相手に改善を要求・実現していくことは、簡単なことではありません。要求しても、「君の代わりはいくらでもいるから、嫌なら辞めてくれていいよ」と会社に言われてしまったらそれで終わり、ということにもなりかねないからです。そこで、労働者が集団となることで、労働者が会社と対等な立場で交渉できるよう、日本国憲法では、


①労働者が労働組合を結成する権利(団結権)
②労働者が使用者(会社)と団体交渉する権利(団体交渉権)
③労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権(争議権))


の労働三権を保障しています(日本国憲法第28 条)。そして、この権利を具体的に保障す
るため、労働組合法が定められています。
労働組合は労働者が複数人集えば自由に結成することが可能です。使用者は組合の結成を妨害することはできず、行政機関の認可や届出なども必要ありません。労働組合は、自分たちの労働条件の向上などを求めて使用者と団体交渉をするほか、組合員の意見や要望をまとめて使用者に申し入れたり、悩みを抱える組合員の相談に乗ったりしています。労働組合の活動を保障するために、不当労働行為(下記「もう一歩進んで①」参照)を使用者が行うことは禁止されています。
※労働組合の結成についての相談は、都道府県の労政主管部局で行っているほか、相談に
応じている労働組合の連合団体もあります。また、会社単位で結成されている労働組合の
ほか、地域単位などで組織されている社外の労働組合に加入することも可能です。




不当労働行為


労働組合法は、労働三権を具体的に保障するため、使用者が以下の行為を行うことを禁
止しています。
①労働組合への加入や正当な労働組合活動(争議行為)などを理由に解雇や降格、給料
の引下げ、嫌がらせ等の不利益な取扱いをすること。(スト時間分の賃金をカットするこ
と、ストに対するロックアウト等を除く。)
②正当な理由のない団体交渉の拒否。(労働組合からの団体交渉申入れには、拒否する
正当な理由がある場合を除き、応じなければなりません。)
③労働組合の結成や運営に対する支配や介入、組合運営経費の援助。(従業員の組合結
成・加入や組合活動を妨害する言動などが該当。)
④労働者が労働委員会に救済を申立てたり、労働委員会での発言や証拠提出をしたこと
を理由に不利益な取扱いをすること。
使用者から不当労働行為を受けたときは、労働組合又は労働者は労働委員会に救済を求
めることができます。


労働委員会


不当労働行為や、ストライキなどの労働争議といった労使(労働者(労働組合)と使用者
(会社))の紛争は、労使当事者だけでなく、社会一般にも大きな損失をもたらすこともあるので、その発生をできるだけ防止し、早期に円満解決することが望ましいといえます。労使紛争は労使当事者がお互いに誠意をもって話合い自主的に解決することが望ましいのですが、実際には労使当事者だけでは解決しないことがあります。そこで、労使紛争の解決に当たる公平な第三者機関として、労働委員会が設けられています。
労働委員会は、公益・労働者・使用者のそれぞれを代表する委員からなる三者構成の委
員会であり、各都道府県の機関として都道府県ごとに「都道府県労働委員会」、国の機関としては「中央労働委員会」が設けられています。
労働委員会では、当事者からの申立てを受けて、不当労働行為があった場合に救済命令
を発したり、労働争議の解決のため「あっせん」「調停」「仲裁」の3種の調整を行っています。そのほか、労働者個人と会社の間での労働条件など労働問題に関する争いを解決するための「個別労働紛争のあっせん」も行っています。(→P.8 参照)
※ 個別労働紛争のあっせんについては、東京都、兵庫県、福岡県を除く各都道府県労働委員会で取り扱っています。(東京都と福岡県は都県の労政事務所等で取り扱っています。)


労働協約


労働協約とは、労働組合と会社との間の約束のことをいい、双方の記名・押印等がある
書面で作成された場合にその効力が発生します。会社が、労働協約に定められた労働条
件や労働者の待遇に反する内容の組合員との労働契約や会社の規則(就業規則→P.14
参照)を定めようとしても、その部分は無効となり、労働協約の基準によることになります。つまり、労働協約に定められた労働条件が就業規則や労働契約に優先することとなります。


第2章 働き始める前に

1 労働契約を結ぶとき

みなさんが仕事をするときは、仕事の内容や給料、勤務日などの労働条件をチェックし
て、自分に合った条件の会社で働こうとしますよね。しかし、条件の合う会社に就職したり、アルバイトが決まったりしても、実際に働き始めたら、会社の人が最初に言っていたこととは全く条件が違っていた、なんてことになってしまったら、困ってしまいます。そこで、労働法ではそんなことがないように、労働契約を結ぶときには、会社が労働者に労働条件をきちんと明示することを義務として定めています。
さらに、特に重要な次の6項目については、口約束だけではなく、きちんと書面を交付し
なければいけません(労働基準法第15 条)。


① 契約はいつまでか(労働契約の期間に関すること)※
② 期間の定めがある契約の更新についてのきまり(更新があるかどうか、更新する場
合の判断のしかたなど)
③ どこでどんな仕事をするのか(仕事をする場所、仕事の内容)
④ 仕事の時間や休みはどうなっているのか(仕事の始めと終わりの時刻、残業の有無、
休憩時間、休日・休暇、就業時転換(交替制)勤務のローテーションなど)
⑤ 賃金はどのように支払われるのか(賃金の決定、計算と支払いの方法、締切りと支
払いの時期)
⑥ 辞めるときのきまり(退職に関すること(解雇の事由を含む))


※ 労働契約を締結するときに、期間を定める場合と、期間を定めない場合があります。期間を定める場合については契約社員やパートタイム労働者に、期間を定めない場合については長期雇用を前提とする正社員に、それぞれ多く見られます。


これら以外の労働契約の内容についても、労働者と会社はできる限り書面で確認する必
要があると定められています(労働契約法第4 条第2 項)。
労働契約を結ぶことによって、会社は「労働契約で定めた給料を払う」という義務を負い
ますが、一方でみなさんも、「会社の指示に従って誠実に働く」という義務を負うことになります。


2 就業規則を知っていますか

みなさんが会社で働くときの労働条件は、その職場で働く人たちみんなに共通のものが
多いですが、そのような共通のルールは「就業規則」に定められることになっています。
就業規則は、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、職場内の規律な
どについて、労働者の意見を聴いた上で会社が作成するルールブックです。大勢の集まり
である会社においては、ルールを定めそれを守ることで、みんなが安心して働き、無用なトラブルを防ぐことができるので、就業規則の役割は重要です。就業規則は、掲示したり配布したりして、労働者がいつでも内容がわかるようにしておかなければならないことになっていますので(労働基準法第106 条)、自分の職場やアルバイト先で何か気になることがあるときは、就業規則を見て確認しましょう。


(就業規則のきまり)
常時10人以上の労働者を雇用している会社は必ず就業規則を作成し、労働基準監督署
長に届け出なければいけません(労働基準法第89 条)
就業規則に必ず記載しなければいけない事項(労働基準法第89 条)
①始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制に関する事項
②賃金に関する事項
③退職に関する事項
就業規則の作成・変更をする際には必ず労働者側の意見を聴かなければいけません
(労働基準法第90 条)
就業規則の内容は法令や労働協約に反してはなりません(労働基準法第92 条、労働契
約法第13 条)


※ 就業規則について、決まりが守られていないと感じたら、「労働基準監督署や総合労働相
談コーナー」(P.7 参照)までご相談ください。


3 安心して働くための各種保険と年金制度

求人情報を見ているときに、「各種保険完備」と書かれている会社を見たことがあると思
います。「各種保険完備」とは、会社が雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険に
加入しており、その会社で働く従業員にはそれらの制度が適用されますよ、ということを示しています。これらは、病気や怪我をしたとき、出産をしたとき、失業したとき、高齢になったときなど、働けなくなってしまうような様々な場面で必要な給付を受けられるようにして、労働者の生活を守ることを目的とした制度です。就業やアルバイトをする際には、自分が働こうとしている企業がどういった制度に加入しているのかチェックしておくことがとても大切です。


労働契約の禁止事項

今の会社をやめて新しい会社に転職したくなったときや、今のアルバイト先よりもっとよ
い条件のアルバイト先を見つけたときに、途中で辞めるとペナルティとして罰金を取られるという条件があっては、辞めることができなくなりますよね。そこで、労働法では、労働者が不当に会社に拘束されることのないように、労働契約を結ぶときに、会社が契約に盛り込んではならない条件も定められています。


① 労働者が労働契約に違反した場合に違約金を支払わせることや、その額をあらかじ
め決めておくこと(労働基準法第16 条)
たとえば、会社が労働者に対し、「1年未満で会社を退職したときは、ペナルティとして罰金10万円」「会社の備品を壊したら1万円」などとあらかじめ決めておいたとしても、それに従う必要はありません。もっとも、これはあらかじめ賠償額について定めておくことを禁止するものですので、労働者が故意や不注意で、現実に会社に損害を与えてしまった場合に損害賠償請求を免れるという訳ではありません。


② 労働することを条件として労働者にお金を前貸しし、毎月の給料から一方的に天引き
する形で返済させること(労働基準法第17 条)
会社からの借金のために、やめたくてもやめられなくなるのを防止するためです。


③ 労働者に強制的に会社にお金を積み立てさせること(労働基準法第18 条)
積立の理由は関係なく、社員旅行費など労働者の福祉のためでも、強制的に積み立
てさせることは禁止されています。ただし、社内預金制度など、労働者の意思に基づき
賃金の一部を会社に委託することについては、一定の要件のもとで許されています。


採用内定
新規学卒者の採用においては、就職活動、採用試験の後、実際に入社する日よりかなり
前に採用の内定をもらうというのが一般的ですが、この採用内定にはどのような意味があるのでしょうか。大変な就職活動を経て、行きたい会社から「春からうちにきて下さい」と言われたら、その会社で働けることを期待するのが当然ですし、突然、「なかったことにする」と言われてしまっては、その先の予定がすべて狂ってしまうことにもなりかねません。そこで、採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、内定取消しは契約の解約となるとされています。したがって、この場合は、通常の解雇と同様、社会の常識に照らして納得できる理由がなければできません(→P.43-45 参照)。
もっとも、実際に働き始めた後の解雇よりは解約理由が広く認められますので、学校を卒
業できなかった場合や所定の免許・資格が取得できなかった場合、健康状態が悪化し働く
ことが困難となった場合、履歴書の記載内容に重大な虚偽記載があった場合、刑事事件を
起こしてしまった場合などには内定取消しが正当と判断され得ます。
ただし、内定取消しが有効である場合でも、通常の解雇と同様、会社は解雇予告などの
手続きをきちんと行う必要があります(→P.44 参照)。また、内定者が内定取消しの理由について証明書を請求した場合には、すぐに証明書を交付しなければいけません。
また、会社は、採用内定取消しの対象となった学生・生徒の就職先の確保について最大
限の努力を行うとともに、学生・生徒からの補償等の要求に対して、誠意を持って対応する
ことが求められます(「新規学校卒業者の採用に関する指針」)。
このほか、自宅待機を含む「入職時期繰下げ」や「一方的な労働条件の変更」「内定辞退
の強要」などの問題に遭遇することもあります。


各種保険・年金制度を詳しく見てみよう


(1)雇用保険


雇用保険は、労働者が失業した場合などに、生活の安定と就職の促進のための失業等給付を行う保険制度です。勤め先の事業所規模にかかわらず、①1週間の所定労働時間が20時間以上で②31日以上の雇用見込がある人は派遣社員、契約社員、パートタイム労働者やアルバイトも含めて適用対象となります。雇用保険制度への加入は会社の責務であり、自分が雇用保険制度への加入の必要があるかどうか、ハローワークに問い合わせることも可能です。保険料は労働者と会社の双方が負担します。
失業してしまった場合には、基本手当(→P.45-46 参照)の支給を受けることができます(額は、在職時の給与などによって決定されます)。雇用保険に関する各種受付はハローワークで行っています。


(2)労災保険


労災保険は、労働者の業務が原因の怪我、病気、死亡(業務災害)、また通勤の途中
の事故などの場合(通勤災害)に、国が会社に代わって給付を行う公的な制度です。
労働基準法では、労働者が仕事で病気やけがをしたときには、会社が療養費を負担し、その病気やけがのため労働者が働けないときは、休業補償を支払うことを義務づけています(労働基準法第75、76 条)。しかし、会社に余裕がなかったり、大きな事故が起きたりした場合には、十分な補償ができないかもしれません。
そこで、労働災害が起きたときに労働者が確実な補償を得られるように労災保険制度が設けられています。基本的に労働者を一人でも雇用する会社は労災保険制度に加入する義務があり、保険料は全額会社が負担します。
労働災害に対する給付は、パートタイム労働者やアルバイトも含むすべての労働者が対象であり、仮に会社が加入手続きをしていない場合でも、給付を受けられます。各種受付は労働基準監督署(→P.7 参照)で行っています。


(3)健康保険


健康保険は労働者やその家族が、病気や怪我をしたときや出産をしたとき、亡くなった
ときなどに、必要な医療給付や手当金の支給をすることで生活を安定させることを目的と
した社会保険制度です。病院に行く時に持って行く保険証は、健康保険に加入することで
もらえます。これにより、本人が病院の窓口で払う額が原則治療費の3割となります。
健康保険は①国、地方公共団体又は法人の事業所あるいは②一定の業種(※)であり
常時5人以上を雇用する個人事業所では強制適用となっており、適用事業所で働く労働
者は加入者となります(派遣社員、契約社員、パートタイム労働者、アルバイトでも、1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上あれば加
入させる必要があります。4分の3未満であっても、①週の所定労働時間が20 時間以上
であること、②月額賃金が8.8 万円以上であること、③勤務期間が1年以上見込まれるこ
と、④学生ではないこと、⑤従業員数501 人以上の規模である企業に使用されていること
(500 人以下の企業でも労使合意があれば適用対象となります)の5つの条件を満たす場
合にも、社会保険に加入させる必要があります。)。また、保険料は、会社と労働者が半々で負担します。


※ 一定の業種・・・製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販
売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介周旋業、集金




(4)厚生年金保険


「年金」といえば、「老後に受け取るもの」というイメージがあるかもしれませんが、公的
年金は、そうした「老齢年金」だけではありません。障害を負った場合の「障害年金」、配偶
者が亡くなった場合の「遺族年金」など、現役世代であっても、所得を失った場合、年金を
受け取ることができる場合があります。
厚生年金保険は、そうした制度のひとつで、労働者が高齢となったり、何らかの病気や
怪我によって身体に障害が残ってしまったり、大黒柱を亡くしてその遺族が困窮してしまうといった事態に際し、保険給付を行い、労働者とその遺族の生活の安定と福祉の向上に
寄与することを目的としています。
厚生年金保険適用事業所は、健康保険と同様①国、地方公共団体又は法人の事業所
あるいは②一定の業種(※)であり常時5人以上を雇用する個人事業所では強制適用とな
っており、適用事業所で働く労働者は加入者となります(派遣社員、契約社員、パートタイム労働者、アルバイトでも、1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が、通常
の労働者の4分の3以上あれば加入させる必要があります。4分の3未満であっても、①
週の所定労働時間が20 時間以上であること、②月額賃金が8.8 万円以上であること、③
勤務期間が1年以上見込まれること、④学生ではないこと、⑤従業員数501 人以上の規
模である企業に使用されていること(500 人以下の企業でも労使合意があれば適用対象と
なります)の5つの条件を満たす場合にも、社会保険に加入させる必要があります。)。また、保険料は、会社と労働者が半々で負担します。






内容が多いため下記の添付と参照してください。


https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000171194.pdf

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